クラウド上で本当にクラウドを活用していますか? デジタルネイティブビジネスからの教訓
DNB は、競合他社を打ち負かしながら、ユーザーが評価するアプリを作成する、イノベーションの品質とスピードによって成功または失敗します。組織は、DNB が予算とエンジニアリングリソースを最大化してコストを削減し、市場投入までの時間を短縮することにより利益を得ることができます。
クラウドでイノベーションのスピードは促進されるのでしょうか。 クラウド上に存在することとクラウドを活用することの違いは何でしょうか。 開発コストを削減し、市場投入までの時間を短縮することは可能でしょうか。
これらの質問に応えるには、デジタルネイティブビジネス (DNB) を参照してみるのが一番です。これらの B2C 企業は「クラウド生まれ」で、その多くは、10 年以上にわたってクラウドサービスから価値を抽出しています。
DNB の成功の鍵は、競合他社を打ち負かしながら、顧客が価値を見出すデジタルアプリを作成するイノベーションの品質とスピードにあります。DNB の製品およびソフトウェア開発チームは、ユーザーにとって重要な機能を作成するためにエンジニアリングの時間と予算を最大限に活用しようと努力しています。
多くの DNB はテクノロジースタートアップとして起業しているので、ベンチャーキャピタルからの資金を確保するためにコアの価値提案を洗練させる必要がありました。このプロセスを通して、DNB は、差異化された自社の価値を顧客に対して定義してきました。これは、レストランとドライバーのネットワークを活用した料理の配達、中古品の価格と在庫、または快適な方法でのコンテンツ消費といった利便性に通じるものがあります。
DNB の開発チームは、ユーザーにとって重要な機能を作成するためにエンジニアリングの時間と予算を最大限に活用しようと努力しています。”
DNB は自社の生産性とエンジニアリングの速度を継続的に向上させる必要もあります。その目的でコモディティ機能がクラウドにシフトされています。機能の差異化と対称的に、DNB の顧客はコモディティ機能を当然と思っています。重要ながらも差異化されていない機能の例として、新規ユーザーをシステムに登録する機能、注文の準備ができたときにアラートを発行する機能、バックエンドデータベースをスケールする機能などが挙げられます。通常、これらの機能は、顧客の購買に関する意思決定の要素ではないので、これらのコモディティ機能を活用することにより、DNB の開発チームは、真の差異化を行い、リピーター顧客を育てるイノベーションにフォーカスすることができます。さらに、これらの機能はすばやい実装と最適化が可能なので、開発チームは、メインテナンスの時間および改善コストを直ちに削減できます。
クラウドによって加速するイノベーション
2009 年に AWS がリリースしたコンピューティングパワーをスケールする機能は画期的な機能として評価されました。このサービスを導入した多くの企業は、開発サイクルにおける予算、時間、そして貴重なエンジニアリング労力を節約しました。時間の経過に伴い、多くのクラウドサービスが追加され、さらに高度な機能で進化が進みました。
これらのサービスには、セキュリティ、ガバナンス、およびコンプライアンスの自動化、ソフトウェアの開発およびテストプロセスのサポート、人工知能 (AI) および機械学習 (ML) プラットフォーム、そして AR/VR やロボティックスを始めとする多くの付加価値機能をサポートするツールが含まれます。例えば、AI ベースの言語学習プラットフォームである Duolingo は、AWS 上の PyTorch フレームワークを使用して、アラブ語からウェールズ語までの 32 の言語のカスタムレッスンを顧客に提供しています。これらのカスタムモデルは、10 万~3 千万のデータポイントを使用して、ユーザーが特定の語句を覚えているかどうかや質問に正しく回答できるかなど、1 日 3 億件の予測を行います。
Duolingo のシステムは、ユーザーが語句を目にした回数、正解数、正解したときのモード、学習してからの時間を分析するディープラーニング (AI と ML のサブセット) を使用して、これらの予測を行います。これらの予測を使用して、アプリは、ユーザーが特定の語句を習得する必要のあるコンテキストでその語句をカリキュラムに挿入します。
2009 年の起業時、Duolingo は、カーネギーメロン大学の翻訳プロジェクトの一環として外国語を教えるために従来の認知科学アルゴリズムを使用しました。しかし、このアルゴリズムでは、リアルタイムデータを処理して、ユーザーの興味をコンテキストに留めることのできるようなパーソナライズされたエクスペリエンスを作成することができませんでした。
ディープラーニングツールを使用することによって、Duolingo は、予測の精度を向上させてカスタマーエンゲージメントを強化することに成功しました。これらのツールを実装した後、Duolingo では、サービスを試した翌日にサービスを再度利用するユーザーが 12% 増加しました。現在、Duolingo は3 億人のサブスクライバーを獲得し、AWS クラウドの活用を進めてプラットフォームのスピードとスケーラビリティを向上させるとともに、予測のタイプを拡大しています。
Duolingo の事例が示すように、クラウドは非常に広範な機能を提供するようになりました。これらの機能には、3 つの主なメリットがあります。
- オペレーショナルエクスペリエンス: 企業は、差異化を進めてメインテナンスやコモディティ作業の比率を下げながら、コストを削減してセキュリティと信頼性を向上させることができます。
- 新しい機能: 組織は、新しい製品、機能、市場の開発速度を向上させることができます。
- イノベーションの加速: オペレーショナルエクセレンスと新しい機能によって、高い俊敏性、メインテナンス性、およびスケーラビリティを備えた迅速な開発作業が可能になります。
1.オペレーショナルエクセレンス: 差異化された作業とコモディティ作業の区別
製品チームの主なフォーカスは、市場での成功を約束する差異化された製品価値を作成することです。インフラストラクチャは重要ですが、ハードウェアおよびソフトウェアの調達、設計、実装、およびメインテナンスをクラウドに移行することによって、組織は市場投入までの時間を短縮できます。ほとんどの組織は、データセンター、マシン、およびストレージなどの物理要素がクラウドインフラストラクチャに含まれることを理解しています。しかし、成功しているほとんどの DNS は、ソフトウェアインフラストラクチャが向上した速度と品質の重要なポイントを表していることも認識しています。
AWS クラウドは、組織のすべてのデベロッパーが同じプロセスを使用してコードを検証できる継続的インテグレーションと継続的デリバリー (CI/CD) パイプラインを提供するようになりました。その結果、異なる複数のチームによって記述されたコードが統合し、連動すること、そしてデプロイへのステージングを同時に行うことができることが保証されます。運用環境にデプロイされたワークロードは監視され、需要に応じてスケールアップ/ダウンされます。過去数年間において、これらの機能を作成およびサポートする予算と人員の業界平均は、エンジニアリングとオペレーションの総予算の 15% でした。これらの機能部門は、新しい収益を生み出す機能のデプロイを遅らせる要因となることがあります。私たちの経験では、クラス最高の DNB は、市場投入までの時間を劇的に削減し、顧客のエクスペリエンスを向上させながら、エンジニアリングとオペレーションのすべてのリソースをこれらのサポート機能に割り当てています。
これは、3 千万人の顧客を有するデジタル通貨ウォレットおよびプラットフォームである Coinbase のケースでも見られます。サンフランシスコを拠点とする同社は、AWS Step Functions を使用して新しいソフトウェア機能と更新のデプロイを自動化および制御しながら、ユーザーをサイバー攻撃から保護しています。Coinbase は、97% の時間をデプロイしただけでなく、新規アカウントを追加するために要した時間を数日から数秒に短縮し、カスタマーサポートチケットの数を大幅に削減することに成功しました。
同様に、カリフォルニア州サンマリノを拠点に SMB 向けの SaaS ソリューションを開発する Freshworks は、特定のプラグイン機能の需要に応じてスケールすることによってコストを管理しながらデベロッパーがプラグインを構築および実行できるプラットフォームである AWS Lambda を導入して市場を拡大しました。このケースでは、Freshworks のエージェントは、以前に比べてカスタマーサポートチケットを半分の時間で解決しています。
2.新しい機能: 製品、機能、および市場の迅速な開発
顧客に優れたサービスを提供するために役立つデータインサイトは、すべてのビジネスにおいて重要です。この点は、最も要求が厳しい顧客である消費者を相手にしている DNB が一番よく理解していると思われます。これが、DNB が顧客価値を追加する機能を重視している理由です。DNB は高度に技術的ですが、優れた DNB は、コモディティ機能ではなく、差異化を生み出すことに多くの時間を費やしています。これらの企業は、顧客が重視しているのが信頼できる映画のお勧めを収集すること、知らない街でスポーツバーを見つけること、興味深いレストランの口コミといった実世界のメリットであることを理解しています。
顧客に優れたサービスを提供するために役立つデータインサイトは、すべてのビジネスにおいて重要です。この点は、最も要求が厳しい顧客である消費者を相手にしている DNB が一番よく理解していると思われます。”
関連性が高くパーソナライズされたエクスペリエンスは、複数のレベルの専門知識を提供する AI/ML ツールを活用することによって生まれます。1) 基本的なレベルで、特化されたデベロッパーは、基盤となるソフトウェアフレームワーク自体をカスタマイズする柔軟性を有しています。これは、独自の車両用エンジンを構築するのに似ています。2) 大半の企業は、フレームワーク上でモデルの構築、トレーニング、デプロイを行います。これは、事前に構築済みのエンジンを選択し、ニーズに併せてチューニングするのに似ています。3) しかし、スピードを最大化するために、企業は、不正検出やパーソナライズなどの特定のユースケースに構築済みのモデルをデプロイできます。これは、要件がわかっているときに「スポーツエディション」や「寒冷地用パッケージ」を購入することに似ています。
AI/ML でのパーソナライズは、特に強力です。金融ソフトウェア企業の Intuit は、Amazon Personalize サービスを使用して、自社の Mint ユーザーの予算追跡および計画アプリ向けの推奨エンジンをすばやく設計およびリリースしました。同様に、ブーツを始めとするアウトドアフットウェアメーカーの Keen は、同じアマゾンのサービスを使用して、顧客の参照および購入履歴を追跡して商品の推奨を行っています。お勧め機能を使用した Keen のテスト E メールによって、同社の収益は 13% 増加しました。また、韓国アパレルの E コマーススタートアップである Ably は、AI を使用して、アプリのフロントページでパーソナライズされたお勧めを提供しています。Ably は、個々の顧客の参照および購入履歴を追跡する推奨エンジンによって、ML テクノロジーの知識がなくても、洗練された AI 機能を構築することが可能になったとコメントしています。
3.イノベーションの加速: 高速、かつ高い俊敏性、メインテナンス性、およびスケーラビリティ
オペレーショナルエクセレンスと組み合わせることによって、これらの新しい機能による高速なイノベーションが実現します。ここで、アイザック・ニュートンの力学を例に説明しましょう。ニュートンの力学は次のように表すことができます。
力 = 質量 x 加速
「質量」は、利益を創出する差異化された製品機能の開発に割り当てられた合計リソース (予算と人員) を表します。「加速」は、開発プロセスと運用環境を表します。強い「力」は、差異化されたアクティビティで使用できるリソースを最大化することに加えて、エンジニアリングの速度の向上によって生まれます。
開始方法
すべてのデジタルビジネスは、AWS クラウドによって実現する迅速なイノベーションによるメリットを生み出すことができます。ここでは、推奨される 4 つの開始ポイントを紹介します。
- 顧客と顧客のニーズから考えることによって、差異化された「力」の ベースラインを設定します。そして、そのニーズを独自の方法で満たす価値を反映させます。顧客が本当に価値を見出す機能だけをリストするようにしてください。リストに含める項目を決定するのが難しい場合、その機能が既に提供されているかどうかを CMO (最高マーケティング責任者) に確認します。リストに含まれない項目にもイノベーションに適用できる「力」を増強するチャンスがあります。
- 差異化のための作業とコモディティ作業に適用する予算と人員を文書化します。この 2 番目のステップには、追加作業が必要ですが、可能な限り詳細に各プロジェクトや製品に割り当てる予算と人員を指定することが重要です。
- コモディティ作業項目の代替方法があるかどうかを判断します。次に、代替方法にシフトすることによって生じる予算と人員の余裕を推定します。
- クラウドに移行する項目の優先順位を設定するには、移行とそのリスクの両方のコストを見積もります。
強い「力」は、差異化されたアクティビティで使用できるリソースを最大化することに加えて、エンジニアリングの速度の向上によって生まれます。”
この 3 つの要因を以下に図式化してみます。横の X 軸は、労力のレベルをコスト (ドル) で表しています。縦の Y 軸は、プロジェクトのリスクの主観的な評価を表します。丸のサイズは、イノベーションに再割り当てできる可能性のある予算を示します。
この例では、組織の現在の状態の評価を使用しています。これと同じ方法を再発的に使用すべきです。結局、振り返ると、2009年にオートスケーリングを早期導入した企業は、手動でのプロビジョニングを行っていた企業に比べて競争的優位性を手にしたのでした。
このような先見の明を新しいプロジェクトに適用すれば、製品チームとエンジニアリングチームによるロードマップ、労力、そして目標に関する議論を促進できます。各チームは、真の差異化を実現する機能を識別して、コモディティ作業を最小限に抑える機会を探すことができます。この直接的な方法により、プロジェクトを劇的に加速させることができます。
デジタルネイティブビジネスは、私たちの日常を変えるイノベーションを作り続けています。そのイノベーションによって、私たちの買い物、エンターテイメント、街歩きなどが大きく変わっています。このプロセスで、DNB は、クラウド上でイノベーションを実行するだけでは十分ではないことを理解しました。その結果は、私たちにクラウドを活用して短時間でイノベーションを生み出す方法に関する貴重な教訓を伝えてくれています。
著者について
Charles Chu (アマゾン ウェブ サービス デジタルネイティブビジネスセグメント 常務取締役)
Charles Chu は、アマゾン ウェブ サービスのデジタルネイティブビジネスセグメントの常務取締役です。その役職において、Charles は、「ウェブ生まれ」の B2C イノベーター企業のニーズに応えるためにワールドワイドでの AWS の作業を率いています。Charles は、製品およびテクノロジーの最高責任者として製品、設計、エンジニアリング、および運用チームを統括していた Brightcove から AWS に移籍しました。Brightcove に入社する前の Charles は、PTC のエンジニアリング部門で 2,000 人のエンジニアを率いるコーポレートバイスプレジデントでした。その前は、Charles は IBM で製品管理、エンジニアリング、およびセールスのさまざまなエグゼクティブマネジメントの役職を 16 年にわたって努めてきました。
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