高効率ビデオコーディング (HEVC)
高効率ビデオコーディング (HEVC) とは?
ごく最近まで、品質の最適化とファイルサイズの縮小のために推奨されていたコーデックは H.264 (別名 AVC) でした。H.265 (または HEVC) へステップアップするには H.264 よりも大きな処理能力が必要ですが、H.265 はさらに効率的で、改善された動画の品質が低ビットレートで提供されます。
HEVC/H.265 ビデオコーデックは、2017 年の Apple Worldwide Developers Conference (WWDC) で同社が HEVC コーデックを「次世代のビデオコーデック」と宣言したことによって、世界的な影響を受けて転換点を迎えました。 HEVC へのこのコミットメント、また発表時にすでに HEVC ビデオエンコードをサポートしていたほとんどのモバイルチップセットのハードウェアにより、動画プロバイダーは HEVC コーデックがストリーミング動画の新しい動画圧縮規格になったことを理解しました。
HEVC vs.AVC: HEVC コーデックが優れている点は?
Apple は次のように発表しています。「一言で言うと、効率です。主に、エンコード効率。HEVC は、AVC と比較しておよそ 40% 効率がアップしています。つまりこれは、ユーザーが 40% 速く高品質なスタートアップを観ることができ、プレイヤーが完全にこれに適応した場合、40% 良く見えるコンテンツを提供できるということを意味します。私たちは、HEVC を幅広く普及させようとしています。当社の最新デバイスでは、ハードウェアに組み込まれた HEVC がサポートされています。そのハードウェアがサポートされていない旧型のデバイスでも、ソフトウェア HEVC コーデックを導入する予定です。HEVC はさまざまな場所で見られるようになるでしょう」
すべての企業の HEVC vs.AVC の分析に対する回答は、HEVC コーデックが提供する 2 つの基本的なメリットに集約されます。
- HEVC は AVC の約 2 倍効率が良い
- HEVC では 4K および高ダイナミックレンジが実現される
HEVC コーデックを使用すると、AVC と同じ帯域幅ではより品質の優れた動画が配信でき、同じ品質の動画は AVC と比較して半分の帯域幅で配信できます。
HEVC vs.H.264 vs.MPEG-2: 3 つのコーデックの比較
簡単に言うと、HEVC コーデックでは、特定のレベルの動画品質に対して必須の最小限の情報を送信するために必要なツールが提供されます。MPEG-2、H.264、HEVC コーデックをコンポーネントごとに比較すると以下のようになります。
コンポーネント | MPEG-2 | H.264 | HEVC/H.265 |
---|---|---|---|
全般 | 動き補償予測、残余、変換、エントロピー符号化 | MPEG-2 と同じ | MPEG-2 と同じ |
イントラ予測 | DC のみ | 多方向、マルチパターン、9 つの 4x4 用イントラモード、9 つの 8x8 用イントラモード、4 つの 16x16 用イントラモード | イントラ予測用の 35 モード、32x32、16x16、8x8、および 4x4 予測サイズ |
コード化された画像タイプ | I、B、P | I、B、P、SI、SP | I、B、P |
変換 | 8x8 DCT | 8x8 および 4x4 DCT 類似の整数変換 | 32x32、16x16、8x8、および 4x4 DCT 類似の整数変換 |
動き推定ブロック | 16x16 | 16x16、16x8、8x16、8x8、8x4、4x8、4x4 |
64x64、および 32x32、16x16、8x8 までの階層式のクオッドトリーパーティショニング各サイズは最大 8 つの方法で分割でき、正方形である必要はありません。 |
エントロピー符号化 | 複数の VLC テーブル | コンテキスト適応型二値算術符号化方式 (CABAC) およびコンテキスト適応型 VLC テーブル (CAVLC) | コンテキスト適応型二値算術符号化方式 (CABAC) |
予測のためのフレーム距離 | 過去 1 未来 1 のリファレンスフレーム | 長期リファレンスを含む最大 16 の過去あるいは/および未来のリファレンスフレーム | 長期リファレンスを含む最大 15 の過去あるいは/および未来のリファレンスフレーム |
フラクショナル動き推定 | ½ ピクセルバイリニア補間 | ½ ピクセル 6 タップフィルタ、¼ ピクセルバイリニア補間 | ¼ ピクセル 8 タップフィルタ |
インループフィルタ | なし | 適応型ブロック解除フィルタ | 適応型ブロック解除フィルタおよびサンプル適応型オフセットフィルタ |
動き補償予測、残余、変換、エントロピー符号化 |
動き補償予測、残余、変換、エントロピー符号化 |
動き補償予測、残余、変換、エントロピー符号化 |
動き補償予測、残余、変換、エントロピー符号化 |
動き補償予測、残余、変換、エントロピー符号化 |
多方向、マルチパターン、9 つの 4x4 用イントラモード、9 つの 8x8 用イントラモード、4 つの 16x16 用イントラモード |
多方向、マルチパターン、9 つの 4x4 用イントラモード、9 つの 8x8 用イントラモード、4 つの 16x16 用イントラモード |
多方向、マルチパターン、9 つの 4x4 用イントラモード、9 つの 8x8 用イントラモード、4 つの 16x16 用イントラモード |
8x8 および 4x4 DCT 類似の整数変換 |
16x16、16x8、8x16、8x8、8x4、4x8、4x4 |
16x16、16x8、8x16、8x8、8x4、4x8、4x4 |
多方向、マルチパターン、9 つの 4x4 用イントラモード、9 つの 8x8 用イントラモード、4 つの 16x16 用イントラモード |
多方向、マルチパターン、9 つの 4x4 用イントラモード、9 つの 8x8 用イントラモード、4 つの 16x16 用イントラモード |
8x8 および 4x4 DCT 類似の整数変換 |
MPEG-2 と同じ |
64x64、および 32x32、16x16、8x8 までの階層式のクオッドトリーパーティショニング各サイズは最大 8 つの方法で分割でき、正方形である必要はありません。 |
64x64、および 32x32、16x16、8x8 までの階層式のクオッドトリーパーティショニング各サイズは最大 8 つの方法で分割でき、正方形である必要はありません。 |
適応型ブロック解除フィルタおよびサンプル適応型オフセットフィルタ |
適応型ブロック解除フィルタおよびサンプル適応型オフセットフィルタ |
MPEG-2 vs.H.264 vs.HEVC コーデックの比較
HEVC コーデックが動画コンテンツライブラリに与える影響は?
メディアとエンターテインメント企業が大規模なコンテンツライブラリのキュレーションと構築を速いペースで行うことで、HEVC コーデックは大きなビットレートの節約を実現できます。組織は、マルチスクリーンの消費者需要に対応するために努力しているため、ストレージインフラストラクチャへの負担が増大しています。ファイルサイズを半分にする HEVC コーデックを使用することによって、2 倍のストレージ容量を持つ代わりにストレージコストを節約できます。
HEVC コーデックにはどのようなビットレートの利点がありますか?
業界にインパクトを与えるような、HEVC によって改善された品質対ビットレート比がいくつかあります。品質の高い動画の配信には膨大なネットワーク容量が消費されるため、効率性の改善は以下のような利点をもたらします。
- 衛星、ケーブル、および IPTV ネットワーク上でのより多くのチャネルの展開
- マネージド型およびアンマネージド型動画配信に対するコストの削減
- 帯域幅に制約のある携帯電話事業者と IPTV 事業者の通信範囲の拡大
- 従来のブロードキャスト配信のような OTT サービスの体感品質の向上
モバイルストリーミング、Ultra HD 4K および 8K は HEVC コーデックによってどのように向上されますか?
モバイルストリーミング市場では、HEVC コーデックは H.264 に匹敵する品質の達成にかかるビットレートが 30〜50% 削減されます。これは、ネットワーク間の動画配信コストの削減によって実現されます。
特定のデバイスが HEVC をデコードできると仮定すると、携帯電話事業者は指定された品質レベルで同じ量のデータを配信する必要がないため、低コストで信頼性の高い動画再生を実現できます。
4K 対応のテレビでは HEVC 以降のコーデックのみが広い範囲でサポートされているため、HEVC は主流市場での高解像度 Ultra HD 4K および 8K 動画への移行にも対応しています。
覚えておくべき主な注意点: 一般に、HEVC は H.264 と同じ品質の動画をデータレートの約半分で配信しますが、これはコンテンツの種類によって異なります。
例えば 1080p ストリームでは、発行者は品質を落とさずにデータレートを 8 Mbps から 4 Mbps に下げることができます。このビットレートの低下によって、動画がエンドユーザーに配信される際にファイルサイズが小さくなるため、エッジキャッシュのコストに大きな影響を与える可能性があります。
また、4G を介した高解像度タブレットへの配信など、場合によっては 720p ストリームではなく 1080p ストリームで視聴できるため、全体的な視聴品質が向上する可能性があります。
セットトップボックスインフラストラクチャを持つ Pay TV やケーブル会社は HEVC を使用できますか?
アップグレードできない旧式のセットトップボックスなどの従来のインフラストラクチャを使用する Pay TV やケーブルにとっては、HEVC の実装は困難です。しかし、コンテンツ配信を分岐する企業もあり、ビジネスの OTT 部分については、HEVC ソリューションを作成および実装するほうがはるかに簡単な場合もあります。
H.264 と HEVC コーデックをマルチビットレートストリームに混在させることはできますか?
この質問に対する答えは、視聴装置がストリームの途中でシームレスに H.264 から H.265 に切り替える能力があるかによって大きく変わります。HEVC コーデックが採用された初期の頃は多くのデバイスでどちらかが選択されていましたが、同じマルチビットレートストリームで H.264 と H.265 が混在することはほとんどありませんでした。しかし、H.264 と H.265 の両方が同じトランスポートメカニズムに適合しているため、2 つのコーデックを混在させることは困難ではありません。
HEVC コーデックが標準化されたのはいつ?
HEVC は、H.264 規格と同様、2013 年に HEVC コーデック規格の最初のバージョンを確立した ISO/IEC Moving Picture Experts Group (MPEG) と ITU-T の Video Coding Experts Group による共同作業の成果です。
ITU-T は電気通信規格の作成と採用を容易にし、ISO/IEC は電子産業の規格を管理します。
- 動画圧縮を進化させるように設計された HEVC コーデックの利点は、以下の 4 つのポイントにまとめることができます。
- 固定の動画品質で、H.264 と比較すると平均 50% のビットレート削減を実現
- 同じビットレートでより品質の高いビデオを配信
- 実装を簡素化し、相互運用性を最大限に高めるための標準の構文を定義
- MPEG トランスポートストリームにラップされるなど、ネットワークフレンドリーは継続