国内線/国際線の予約・発券・搭乗、航空機の運航実績、貨物輸送実績などのデータが蓄積されたデータウェアハウス(DWH)を Amazon Redshift に移行。AWS Database Migration Service を活用して、テラバイトクラスのデータを短期間かつ安全に移行しました。
DWH のサーバー調達リードタイムはオンプレミスの最大 5 ヶ月から最短 1.5 ヶ月に短縮。バッチ処理の性能も最大で 100 倍向上しました。分析基盤のパフォーマンスが向上したことで、分析業務の効率化や高度化が進み、新たな価値の創出に向けた取り組みも加速させていきます。
日本を代表する航空会社の全日本空輸株式会社(ANA)。国内線、国際線ともに国内最大規模を誇り、英国 SKYTRAX 社のワールド・エアライン・スター・レーティングでは世界最高評価の「5 スター」を 2012 年から 6 年連続で獲得しています。ANA グループでは、アジア・新興国の経済成長を背景とした航空需要の拡大や、2020 年開催予定の東京オリンピック・パラリンピックなどを見据えて、2018 年度から 2022 年度までの中期経営計画を策定。「エアラインの収益基盤の拡充と最適ポートフォリオの追求」「既存事業の選択・集中と新たな事業ドメインの創造」「オープンイノベーションと ICT 技術の活用」の 3 つを重点戦略に設定しています。
「ICT 技術の活用においては、人工知能(AI)、機械学習、IoT、ロボット、AR/VR などのデジタル技術と ANA が持つビッグデータを融合することにより、新しい価値の創出に貢献していきます。」と語るのは、業務プロセス改革室 IT サービス推進部 データ戦略チーム リーダーの筆島一氏です。
一方、20 年以上にわたり ANA がオンプレミス環境で運用してきたデータ分析基盤のデータウェアハウス(DWH)は、度重なる追加開発の複雑化、ディスク容量の逼迫、バッチ処理の長時間化、運用業務の負荷増大などに直面していました。「新たな分析データを追加しようとしても、ディスク容量に限界があるため容易に対応できず、高度な分析が困難になっていました。システム運用を担う IT 部門も、追加開発やディスクの増設などにリソースを取られている状況でした。」と、ANA システムズ 次期実績システムプロジェクト マネージャーの石井直毅氏は振り返ります。
データの戦略的な活用には柔軟性と拡張性を備えたデータ分析基盤が必須と考えた ANA は、DWH のクラウド移行を決断します。複数のサービスを検討した中からマネージド型 DWH の Amazon Redshift と、Amazon EC2、Amazon S3、Amazon Aurora などを採用しました。
「AWS を選んだ決め手は、日本国内の金融機関や小売業など大規模に機密情報を扱うシステムでの豊富な導入実績に裏付けられたセキュリティの高さ、ノウハウを持つ AWS パートナーの数が圧倒的に多かったことです。」(筆島氏)
DWH の移行プロジェクトは 2016 年 10 月からスタートし、翌年 10 月までに環境構築を終了。システムテスト、受入テスト、データ移行などを経て 2018 年 2 月に本稼働を開始しました。大規模なデータの移行には、データベース移行ツール AWS Database Migration Service(DMS)を採用。20 年以上にわたってオンプレミス環境で運用してきたデータ分析基盤を、大きなトラブルなくクラウドに移行できたことの意義は大きいといいます。
また、検討当初からコンサルティング/アドバイザリーサービスの AWS プロフェッショナルサービスを活用し、専門家の知見を取り込んだこともプロジェクトの円滑な進行につながりました。「導入パートナーとは異なる第 3 者の視点から Amazon Redshift や AWS DMS の情報を提供していただけたことで、意思決定のスピードが速まりました。結果としてプロジェクトの品質(Q)、コスト(C)、納期(D)に大きく貢献しました。」と筆島氏は評価しています。
オンプレミスの場合、必要な容量を多めに見積もってサーバーを調達しますが、既存の仕組みを動かすために必要な台数を AWS 側で検証しチューニングも行った結果、サーバー台数を減らすことができたといいます。稼働後も AWS のエンタープライズサポートを活用して細かなトラブルを解消しながら、安定運用を続けています。
Amazon Redshift には現在、国内線/国際線の予約・発券・搭乗の情報、航空機の運航実績、貨物輸送実績などのデータが蓄積されています。経営企画、運航品質管理、マーケティングなどの部門を中心とした ANA のユーザーが、Amazon Redshift 上のデータ、外部データなどを組み合わせて相関性の分析や目的別のレポート作成などに活用しています。Amazon Redshift への移行によりパフォーマンスが向上し、ヘビーユーザーほど「レスポンスが速くなった」「使い勝手が良くなった」と実感しているといいます。さらに今後、分析業務の効率化や高度化が進んでいくことも期待されています。
また、ディスク容量の拡張、バッチ処理の長時間化、運用業務の負荷など導入前に抱えていた課題も解消されました。
「オンプレミスではサーバーの調達に 3~5 ヶ月かかっていましたが、AWS では数クリックで仮想サーバーを立ち上げられるため、調達全体のリードタイムが 1.5~2 ヶ月に短縮されています。バッチ処理の性能も最大で 100 倍向上するなど、個々の処理時間を大幅に短縮できました。これによりIT 部門のシステム運用負荷が軽減し、より高度な業務へ人的リソースが割り当てられるようになっています。AWSの場合、ダウンタイムが発生しても復旧が早いので、ANAの業務やサービスに直接影響することがない点も非常に優れていると思います。」(石井氏)
コスト面でも AWS 移行によって、ハードウェア更新費を利用量に平準化し、インフラのコスト構造を固定費から変動費に転換できた効果は大きいといいます。
今後は、Amazon S3 上のデータが直接参照可能な Amazon Redshift Spectrum の導入を検討しています。これによりデータ集計の中間処理が不要になり、処理がシンプルになることでさらなるパフォーマンスの向上を見込んでいます。また、Amazon Redshift のノードタイプをよりパフォーマンスの高いサービスへ移行することにも積極的に取り組んでいく予定です。さらに、AWS 上で稼働している機能を拡充し、データ分析の高度化につなげていく考えを明らかにしています。
「当社サービスのさらなる進化に向けて、今後も AWS の知見を取り入れ、活用領域を拡充・深化させていきたいと思います。」(筆島氏)
筆島 一 氏
石井 直毅 氏