クラウドコンピューティングは、今や 10 年を超える歴史のある成熟したテクノロジーであり、あらゆる業種および規模のビジネスにおいて、スピードと俊敏さを最大化し、貴重なリソースを IT 運用から遠ざけ、新たなイノベーションや顧客価値の創出に集中できるよう貢献してきた確かな実績を持っています。結果として、現在クラウドを利用していない多くのビジネスにとって、導入に向かう決定はますます下しやすくなってきています。
多くのビジネスにとって――しかし、すべてのビジネスではありません。
「規模の大きな事業では、このような大きな変化に対してある程度の抵抗感を覚えるのが常です」と、Capital One 副社長兼最高技術責任者 George Brady 氏は語ります。「これは特に金融機関に当てはまります。旧来の基幹システム、複雑な業務規定、膨大なコンプライアンス要件により、クラウドへの移行を躊躇することもあるでしょう。
しかしながら、Capital One がクラウドに至るまでの道のりを語る前に、Brady はそもそもなぜ Capital One がその道に踏み出したのかを理解することが重要だと言います。
「一企業としての歴史を通して、常に最優先にしてきたのは、バンキングのカスタマーエクスペリエンスを変容、最適化させることです」とBrady 氏はは説明します。「Capital One の科学者、エンジニア、デザイナーは多くの時間を費やして、どうすれば最新のテクノロジーがその役に立つのかを考えています。」
そういうわけで、2014 年に Brady 氏が入社したとき、Capital One がすでにクラウドコンピューティングを検討しているところだったことに不思議はありません。
「当時、プライベートクラウドはまだできたばかりで、エンジニアもまた AWS を試している段階でした」と Brady 氏は話します。「根本的な疑問は、自社でクラウドインフラストラクチャを構築し運用することにリソースを捧げることと、パブリッククラウドに移行して顧客の望む新機能や新製品の開発、リリースにフォーカスすることと、どちらがより理にかなっているのか、ということでした。Capital One の顧客満足への執着の強さを考えれば、自ずと答えは決まりました。」
最初の疑問には簡単に答えが出ましたが、そうして開かれたドアの先にはもっと複雑な――セキュリティ、コンプライアンスに関する問題、そして必要となるカルチャーの変化をどうすれば起こせるのかという問題が待っていました。言い換えれば、Capital One はこの時まさに、そのクラウドへの旅で、多くの大規模な事業が苦戦し始める地点に立っていました。
Brady は、入社によって Capital One のエンタープライズテクノロジーチームにもたらした 30 年間の蓄積から、簡単なことから少しずつ進めていくという一見合理的な方策が、大企業の "クラウド化" の達成に失敗を招きかねないことを知っていました。
「多くの企業が、クラウドにアプローチする際に簡単な問題から解決しようとします。例えば、ビジネスで独立している部分をクラウドに置き、これがそのうちもっと大きな問題の解決を容易にしてくれるだろうと期待するなどです。」と Brady 氏は続けます。「当社はそれとは反対に、最も困難な問題を最初に解決しようと決めました。すべてのアプリケーションを責任を持ってクラウド上でデプロイし実行できるという点を最初に保証することなく、クラウドの価値を認めるよう利害関係者への説得を試みるという状況は望みませんでした。」
これは、セキュリティの問題に早期に立ち向かうことを意味しました。「金融機関として、当社は顧客データの安全性を非常に重大な事として受け止めています」と Brady 氏は言います。「ワークロードを 1 つ移動する前に、社内全体からグループを募り、クラウド用のリスクフレームワークを構築しました。このフレームワークは、オンプレミス環境で満たすセキュリティとコンプライアンスと同じ高い基準を満たすものでした。AWS は、あらゆる段階で力になりました」
出来上がったクラウドリスクフレームワークを実装するため、Capital One は人と技術の両方に頼っていました。Brady 氏は「初期段階の重要なステップは、リスク管理者とクラウドエンジニアからなるクラウドガバナンス機能を確立し、アプリケーションをクラウドに移行する際に管理が行き届いた状態を維持する能力やコントロールを管理することでした」とした上で、クラウドリスク管理のフレームワークを四半期ごとに更新や改良を続けている、と付け加えました。「Cloud Custodian というコンプライアンス施行エンジンを開発してオープンソース化し、ポリシー違反の検知と修正を自動化することで、創造的に働く能力を制限しないようチームを保護できました。また、報告ポータルを構築して、複雑なマルチアカウント環境全体にわたるサービス全体のコンプライアンスを把握、測定できるようにしました」
Capital One の他の主な成功要因は、長期的なクラウド化戦略と教育への集中でした。
「利害関係者全員がこのような大きな変化に対して安心していられるよう、目指す場所とその理由についての長期的視野を持つ助けになっています」と Brady 氏は言います。「一番最初に、AWS クラウドの使用と当社の長期的なビジネス戦略を並べた 5 年間のロードマップを作成しました。クラウドから得られる価値に向かって行けることが、会社を率いる人材を得てクラウドチャンピオンに変える鍵でした。最も効果的な議論は、より速いイノベーションをクラウドでサポートする方法、より多くのデータの価値を見つけて保存すること、障害からの迅速な復旧、リソースをオペレーションからより価値の高い仕事にシフトさせること、などでした。
Brady 氏と彼のチームが、クラウド構築に幅広いサポートを確立して維持するのに使用したもう 1 つのツールは、緻密に設計されたトレーニングプログラムでした。「成功するクラウドプロジェクトでは、影響を及ぼす人の誰もが、やるべきこととその理由を理解しなければなりません。」と Brady 氏は語ります。「新しいツールの使い方を、エンジニアや開発者に訓練する必要があるのは当然です。しかし、クラウドがビジネス目標にどれだけ素晴らしいものであるかを、会社の幹部に理解させる必要もあります。大きな投資をする意思があるなら、ボールを前線に送り続ける必要があります」
データセンターの設置面積を縮小してマイクロサービスの利用を拡大する長期的な戦略の一環として、Capital One は数年前からクラウドファーストであったため、クラウド上での運用の価値について将来の見通しとして話す必要は既になくなっており、代わりに具体的な利点を指摘できます。AWS を使用することで、Capital One は数か月や数年ではなく数週間で新しい機能や製品を市場投入するのに役立つアジャイル DevOps プロセスに力を入れています。最先端の機械学習分析と顧客サービスソリューションにデータを提供し、強力なモデルトレーニングを提供、コンタクトセンターを CRM やその他の主要企業システムと統合しています。また最新のクラウドテクノロジーについて学んでイノベーションを起こす見込みのある、入門レベル上位や中堅クラスの開発者とエンジニアを引き付けています。
しかし、顧客中心の Capital One では、AWS が直接的に顧客に利益をもたらすことができなければ、こういったことは何も意味がありません。Brady 氏は、それは問題ではないと言います。
「Capital One の事業では常に、顧客が必要としているものから出発し、そこから逆算して提供する方法を見つけています」と Brady 氏は説明します。「AWS を使用することの最も重要な利点は、そのために必要なインフラストラクチャを構築したり運用したりすることを心配せずに済み、顧客に素晴らしいエクスペリエンスを提供することに、時間、費用、そしてエネルギーを集中させられるということです」