DNP の DX を支えるデジタル人材育成
AWS DeepRacer で楽しみながら AI を学ぶ
2020
機械学習の成果を競う AWS DeepRacer リーグで世界の頂点に立った老舗の印刷会社。社員のやる気や興味を引き出すリーダーシップの秘訣
AWS DeepRacer への参加を通して刺激を受け、新たなものに挑戦していくやる気や興味を循環させる仕組みが、業務の活性化につながっていきます
福田 祐一郎 氏
株式会社 DNP デジタルソリューションズ
代表取締役社長
“DX for CX”の実現に向けてデジタル人材の育成を加速
大日本印刷(以下、DNP)の情報イノベーション事業部の ICT 分野における戦略を担う株式会社 DNP デジタルソリューションズ(以下、DDS)は、リアルとデジタルを統合した最高のカスタマーエクスペリエンス(CX)の実現に取り組んでいます。この CX に欠かせないのがデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進であり、“DX for CX”に向けて AI を始めとした技術を使いこなすデジタル人材の育成が急務となっています。
「DDS が育成を目指すデジタル人材は、“ビルダー(Builders)”と呼ぶ、開拓者の役割を担うエンジニアです。アマゾン ウェブ サービス(AWS)でもよく言及されているように、社会課題、顧客の課題を解決するために新しい技術を日々追いかけ、さまざまなクラウドサービスを組み合わせながら今までにない価値を生み出すビルダーが、DX の時代には欠かせません」と福田氏は話します。
やる気を後押しする仕組み作りに不可欠な経営層のコミットメント
デジタル人材の育成に向けて DDS は、研修制度や資格取得支援に加え、社外の動向を知るための外部カンファレンスの視察や、エンジニアの実力を試すハッカソンへの参加も奨励しています。
「社員は社外に出ることで現在の自分の立ち位置を知り、他社からも刺激を受け、新たなものに挑戦するモチベーションを高めることができます。“やる気”や“興味”を循環させる仕組みを、経営層がコミットする形で提供することが重要です」(福田氏)
社内外のプログラムに参加したエンジニアを中心に、組織の壁を超え、楽しみながら学ぶ風土が DDS 内に醸成されつつあるといいます。
特に、AWS DeepRacer リーグへの挑戦は大きな転機となりました。AWS DeepRacer はクラウドベースの 3D レーシングシミュレーターで、強化学習(RL)を楽しみながら学ぶことができます。RL は高度な機械学習技術であり、他とはまったく異なるアプローチでモデルトレーニングを行います。
「AWS DeepRacer リーグへの挑戦は、社員が自ら手を挙げて実現しました。AWS re:Invent 2018 に参加した社員が社内レースを企画したことがきっかけです。そこからわずか約 1 年後の世界大会で優勝するとは、夢にも思っていませんでした」(福田氏)
クラウドやAI とは無縁だったエンジニアが
わずか 1 年弱の学習で世界一に
AWS DeepRacer の活動は、DNP の情報イノベーション事業部と DDS で全国から 80 名を超える社員が参加し、2019 年 2月に開始しました。活動は週に 2 回の勉強会と、月に 1 回の社内レースが中心で、それらはすべて就業時間内に実施することを徹底しています。
「楽しみながら高度な機械学習技術を習得できるため、当社としても大きな期待を寄せていました。楽しみながらというと自主的な勉強会を想像されますが、やるからには本気で優勝を目指し、本業で活かせるレベルになろうという思いから就業時間内での活動とし、参加者の上長や職場の理解を得るように協力を要請しています。本番同様の専用走行コースを社内に開設したい、海外を視察したいといった参加者から寄せられる要望にも、経営層として 100% 応えました」(福田氏)
こうした活動が実を結び、2019 年 6 月の AWS Summit Tokyo 2019 で開催された AWS DeepRacer リーグの日本大会では DDS のメンバーが表彰台を独占。日本代表として参加した AWS re:Invent 2019 のチャンピオンシップで世界制覇を成し遂げました。64 名によるトーナメントを戦って優勝した DDS 社員は、AI とは無縁のエンジニアで、取り組んでからわずか 1 年弱で世界一に登り詰めるという快挙でした。
世界の名だたる IT 企業を抑え、日本の老舗の印刷会社が AWS DeepRacer リーグで頂点に達したことは、世界中から驚きを持って迎えられました。国内外のメディアからは取材が殺到。結果的に DNP の知名度は高まり、新卒採用や中途採用にも AI に関わりたいという人材からの応募が寄せられるようになっているといいます。
福田氏は「印刷会社がなぜ AI かと聞かれますが、元々“文明ノ営業”という創業の精神が 140 年以上にわたって受け継がれてきたことと、若手エンジニアが伸び伸びと動ける風土があったからだと思います」と分析します。
活動の成果として一番大きかったのは、初心者でも世界最先端の AI 技術で世界一になれるという自信が、参加者全員に根付いたことです。
「自ら率先して考え、自分の役割を果たしていくマインド、つまりビルダーに求められる資質が醸成されました。年間投資額は約 80 名分の AWS 利用料、専用コースの製作費、海外視察費などを合わせて 1,000 万円を投じているものの、広告効果も含めると投資以上のリターンが得られたと確信しています」(福田氏)
機械学習エンジニアの裾野を拡大
AWS DeepRacer で学ぶ楽しさを社外にも発信
AWS DeepRacer の活動は 2020 年も継続中で、一部のメンバーを入れ替えて 80 名体制で実施しています。「優勝に刺激を受けて志願した新メンバーから、昨年のリベンジを狙うメンバーまでが参加し、さらなる技術習得に勤しんでいます」と福田氏は語ります。
一方、活動の中で得られた AI のノウハウは、今後もイベントへの参加や、大学での講演、地方拠点におけるAWS のユーザー会 JAWS-UG との共同レース開催、企業研修などを通して多くの人に広めていくと同時に、エンジニアが多くの人と情報交換ができるコミュニケーションチャネルを拡大していく方針です。
一方、社内では AWS DeepRacer で学んだエンジニアが AI 開発プロジェクトに続々と参画し、今後のサービス創出や売上への貢献が期待されています。
経営トップとしてデジタル人材の育成に取り組んできた福田氏は、AI のエンジンを使ったチャットボットなど、最新技術を本業にもっと活かしていきたいと、さらなる意欲をのぞかせます。
「成功のコツは、エンジニアが時間を忘れるほど没頭できる環境や仕掛けを作ることにあると思います。加えて、仲間と切磋琢磨しながら楽しくできること。仲間と一緒に時間を忘れて没頭でき、楽しみながら学べることこそが、新しいことに挑戦するマインドにつながります」
AWS DeepRacer で学んだエンジニアが牽引していく DNP グループのさらなる挑戦から、今後も目が離せません。
カスタマープロフィール:株式会社DNPデジタルソリューションズ
- 代表取締役社長 福田 祐一郎 氏
- 従業員数 約 850 名 (2020年3月31日現在)
- 事業内容 コンテンツ制作・システムインテグレーション・データセンター運用
実施施策
- 社外コンペティションやハッカソンへの参加を奨励してエンジニアのモチベーションを向上
- AWS DeepRacer リーグでの活躍を目標にエンジニア約 80 名体制で就業時間内に機械学習技術を習得
ご利用の主なサービス
AWS DeepRacer
あらゆるレベルの開発者がクラウドベースの 3D レーシングシミュレーターを使って機械学習を実践的に学べます。このシミュレーターは完全自走型の 1/18 スケールレースカーで、強化学習、およびグローバルレーシングリーグによって駆動します。