災害時の確実な情報伝達
電話連絡、安否確認の迅速化
二次被害リスクの低減
概要
2011 年の東日本大震災で甚大な津波被害を受けた陸前高田市。被災経験をいかし、すべての人にとって安心、安全なまち作りを目指す同市では、災害発生時に防災行政無線や電話連絡、SNS を使用して情報を提供していますが、迅速で確実な情報伝達や職員のマンパワー不足が課題でした。そこで NTT東日本の協力のもと、一斉架電と AI を活用した新しい情報伝達システムをアマゾン ウェブ サービス(AWS)上に開発し、住民の意見を取り入れながら実用化に取り組んでいます。
課題 | 災害情報を確実に伝達するため、誰もが使える電話を活用
津波に耐えた「奇跡の一本松」のモニュメントでも有名な岩手県の陸前高田市では、津波に備えて嵩上げ工事をした新市街地の整備など、震災からの復旧・復興として公共事業を進めてきました。『ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり』の理念のもと、被災経験を生かしたまちづくりの取り組みが評価され、2019 年には岩手県内初の『SDGs 未来都市』として内閣府に選定されています。
災害時には、自分の命を自身で守ることが非常に重要です。この「自助」方針は国からも示されていますが、陸前高田市では、住民が自ら命を守るために必要な情報を正確かつ確実に伝える使命があると考えています。しかし、それにはさまざまな課題があるといいます。「当市からは防災行政無線や SNS、ホームページなどの手段を使って避難や防災の情報をお伝えしていますが、特に高齢の方などはスマートフォンなどデジタル機器の操作に慣れないため、十分に情報が伝わらないという課題があります。災害による犠牲を繰り返さないためにも、確かな情報を伝えるツールが必要だと考えています」と語るのは、陸前高田市 防災局防災課 課長 兼 防災対策監の中村吉雄氏です。
同市は災害時、防災や避難の情報について電話を使った伝達も一部で行っていましたが、時間も労力もかかっていました。中村氏は、市の防災会議のメンバーである NTT東日本と話し合うなかで同社が開発した一斉架電が可能なオートコールの存在を知り、災害時の情報伝達に利用するための検討を始めました。
これは、誰もが使い慣れた電話とクラウドサービスを組み合わせたシステムで、核となるアーキテクチャに AWS のコンタクトセンター向けサービス Amazon Connect、サーバーレスのコンピューティングサービスである Amazon Lambda、マネージドデータサービスの Amazon DynamoDB などが採用されています。NTT東日本が AWS を採用した理由として、各種サービス・システムとの連携のしやすさ、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)の認定、行政サービスでの利用に耐えうる信頼性/安定性などが挙げられています。NTT東日本は開発・拡張を続け、のちに『シン・オートコール』と命名されます。
AI をはじめ最新のデジタル技術を活用しながら、誰もが使いやすいシステムを目指しています。東日本大震災の際に多くの支援をいただいた当市からの恩返しの形の 1 つとして命を守る仕組みを広めていければと願っています”
中村 吉雄 氏
陸前高田市 防災課 課長兼防災対策監
ソリューション | 音声応答 AI によって安否情報を正確に把握
AWS 上に構築されたシン・オートコールは、当初は特殊詐欺の対策訓練のために開発されたものでしたが、中村氏はこれを防災関連の情報伝達や見守りに利用できないかと考えました。また、新たにサーバーなどの機材を導入する必要がなく、スモールスタートして実証を重ねながら実用化できるクラウドの利点も魅力に感じたといいます。シン・オートコールはあらかじめ登録した電話番号リストに一斉架電し、電話をした相手や応答内容を記録できるため、情報伝達の省力化が期待できます。NTT東日本との協議について中村氏は、「一斉架電は魅力的でしたが、やはり住民の方々の使い勝手が重要です。また、情報を伝えて終わりという一方通行のものではなく、避難や被災の状況を確認できるよう、何らかのフィードバックができる双方向の仕組みを構築したいと思いました」と振り返ります。
そこでプロトタイプでは、電話のあとにプッシュダイヤルやスマートフォンのキーパッドの番号で安否情報を確認する機能を追加しました。そして、住民の利用に耐えうるかどうかを確かめるため、2021 年の秋ごろにモデル地区である 7 つの行政区でプロトタイプの体験ワークショップを行いました。しかし、体験した住民から、「電話機を耳から離した状態でのダイヤルやキー操作で混乱してしまう」という声が上がりました。このようなフィードバックをもとに、NTT東日本は音声やテキストに対応した対話型 AI サービスである Amazon Lex を活用して、音声によって安否確認をする仕組みにアップデートしました。
これにより、一斉架電後の自動音声のガイダンスに対して、電話を受けた人は「はい/いいえ」の意思表示や現在地について、音声で回答できるようになりました。音声による回答はテキストデータにも変換されます。たとえば、話の内容から、「ケガをしている」といったキーワードが含まれている場合は緊急性があり、救助の優先度判断などに活用することができます。そして 2022 年の 3 月に陸前高田市、10 月に岩手県の防災訓練において改善されたシン・オートコールの実証が行われました。
導入効果 | 改善を継続し、多くの人々が命を守る手段へ
防災訓練で得られたシン・オートコールに関するアンケートでは「このシステムは導入した方がいい」「非常に有効性を感じる」という良い評価が得られ、実用化を進めることとなりました。「一斉放送や SNS 発信では他人ごととなってしまいますが、個人に個別にかかってくる電話であれば、自分ごととして捉えていただけます。また、地区の防災役員が 1 軒 1 軒訪ねて安否確認を行っていると、その途中で被害に遭う危険性もありますが、そのような不安がなくなるという声もありました。ご自身が話した言葉が AI でテキスト化されることへの驚きやシステムへの興味も手伝って皆さんに積極的に協力いただけたこともあり、利用が進むのではと期待しています」(中村氏)防災用途でのシン・オートコール利用は全国でも初めての取り組みとなり、大きな注目を集めています。岩手県が 2023 年 6 月に、自治体がデジタル技術を災害に役立てる検討を行う目的で立ち上げた『復興防災 DX 研究会』の中で、中村氏がシン・オートコールの取り組みを披露したことで、全国の自治体から関心を集めています。
シン・オートコールはすでに陸前高田市の職員の安否確認には運用を開始していますが、次のステップである住民向けの実用化を目指し、さらに磨きをかけています。
2023 年 11 月 5 日の「津波防災の日」「世界津波の日」の地震/津波を想定した避難訓練までには本格運用が開始される見込みです。中村氏は「運用を始めて終わりではありません。利用するなかでさまざまな課題が出てくると思いますので、改善を続けていきます」と決意を示しています。
防災分野での一斉架電・安否確認の仕組みを実現できたことについて中村氏は次のように語っています。「NTT東日本には当市の漠然とした要望を、最新の AI 技術を使った全国初の取り組みにまで具体化していただきました。開発を進めていくなかで、AI のテキスト認識の精度が目に見えて良くなっていく様子を見て、AWS の技術や技術者の助力を実感しました。そしてこのようなシステムが防災に有益であることを広く示すことができました。陸前高田市は、震災からの復興で多くの地域や国々からご支援をいただきました。当市からの恩返しの形の 1 つとして減災に貢献し、命を守る仕組みを広めていければと願っています」
組織概要 : 陸前高田市
岩手県の東南端、三陸沿岸に位置する陸前高田市。縄文時代からの文化圏が根付き、平安時代には金や海産物が経済の基盤となり、藩政時代には気仙地方の政治経済の中心として栄えた。比較的温暖な気候に恵まれ、りんごやゆずなどの農産物や、ワカメやホタテなどの海産物が特産。東日本大震災の大津波に耐えた「奇跡の一本松」が復興のシンボルとなっていることでも知られる。
中村 吉雄 氏
AWS 公共部門パートナー
東日本電信電話株式会社
AWS の導入から 24 時間 365 日の監視運用、AWS への閉域接続ネットワーク、お客さまの LAN 環境など、クラウド利用に必要なサービスを総合的に提供する AWS アドバンスドコンサルティングパートナー。各県域の身近な担当者が、お客さまの課題に寄り添い、最適なソリューションを提供し、ビジネスの成功をリードしている。
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