スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社
顧客と従業員をデジタルでつなぐスターバックスのクラウド活用
驚きや新しい体験を提供し、オリジナルのサービスで信頼感を
2020
DX/CXを目標とするのではなく、“やりたいことをやるため”にクラウド化を推進
スターバックスの未来像を描ける自走するエンジニアを育成。
エンジニアには求められるものを作るだけではなく、長期的な視点を持ってビジネスの将来像を描いてほしいと思っています。テクノロジーから貢献できる価値は大きく、自分たちでクラウドを扱えるからこそ実現できると考えています
荒木 理江 氏
スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社
スターバックステクノロジー本部
カスタマーテクノロジー部 部長
徹底した顧客・従業員志向をデジタルでも実践
独自のコーヒー商品や店舗デザイン、親しみやすいサービスで幅広い支持を集めるスターバックス コーヒー ジャパン。1996 年に東京都銀座の日本 1 号店開店から拡大を続け、2021 年には 25 周年を迎えます。同社の人気を支えているのは、徹底した顧客主義です。
「スターバックスのお客様は、当社のサービスに絶対的な信頼を寄せてくださっています。いっそうこの期待に応えるため、それぞれのお客様にあったサービスを提供することに努めてきました。例えば、店舗のパートナー(従業員)がお客様に合わせたコメントやイラストをカップに描いてお渡しすることもありますが、店内だけでなく店外でもスターバックスの心地よい体験が続いてほしいという思いを込めています」と、荒木氏は語ります。
近年、多くの企業が、デジタルトランスフォーメーション(DX)やカスタマーエクスペリエンス(CX)の強化に取り組んでいます。一方、スターバックスは 2016 年にモバイルアプリの提供を開始していますが、 DX/CX を念頭に置いたわけではなく、もともとパーソナライズ志向であったサービスをデジタルで強化しようという試みでした。
同社はまた、キャッシュレス決済の先駆けでもあります。2002 年にはプリペイド方式の『スターバックスカード』を日本で導入し、スマートフォン以前の携帯端末に対応した『モバイルスターバックスカード』を2013 年に開始。さらに 2019年には、モバイルアプリで注文・決済して店舗で商品を受け取る『モバイルオーダー&ペイ』をスタートしました。
そのほか、2020 年6 月に東京都・国立でオープンしたスターバックス サイニングストアは、手話を共通言語として、聴者と聴覚に障がいのあるパートナーが一体となって運営し、注目を集めています。このサイニングストアにはコーヒーを待つ間に手話を楽しく学べるデジタルサイネージが設置されているなど、同社の取り組みは、常に他社をリードしています。
「当社は“DX や CX に取り組む”ことをゴールとは考えていません。お客様のために何ができるのか、デジタルで新しい体験を提供できないかを突き詰めた結果として DX になっているということです。最近は、お客様やパートナーの体験をよりよくするためには、自ら考えて新たな仕組みを創り出す必要があると考えています。本当にやりたいことをやるためにアンテナを高く張り、クラウド化やシステムの内製強化を進めてきました」(荒木氏)
長期的な視点でビジネスを支えるエンジニアリングチームへ
スターバックスのクラウド化への取り組みは、10 年以上前に遡ります。スターバックスの熱烈なファンは新しい商品などのアナウンスがあると敏感に反応し、Web サイトへのアクセスが急増します。そのため早期から、スケーラビリティに富むクラウドサービスに着目し、国内でも実績を積んでいたアマゾン ウェブ サービス(AWS)を 2014 年に採用しました。オンプレミスシステムの調達や構築などを経験してきた荒木氏にとっても、AWS の仕組みは画期的なものでした。システム開発経験の少ない若いスタッフでも率先して使いこなし、安定的に稼働する利便性を知ってしまうと元には戻れないといいます。
同社では現在、さまざまな用途に AWS を活用しています。クラウド化以前から取り組んでいた顧客動向分析の領域はアーキテクチャから見直し、AWS 上にデータを統合して、レコメンドサービスやサービス開発のための情報として活用。最近では、データの利用者・利用方法の拡大ニーズに合わせ、データサイエンティストがよりすばやく情報を活用できるデータレイクの構築に着手しています。
「エンジニアには、ビジネスの企画者が求める今を作るだけではなく、長期的な視点を持ってビジネスの将来像を描いてほしいと思っています。AWS であれば常に利用状況をモニタリングして、コストやシステムライフサイクルを想定して動くことが容易になります。エンジニア一人ひとりがスターバックスの将来に思いを馳せて働くことで、テクノロジーからビジネスに貢献できる価値は大きいと考えています」(荒木氏)
自ら学び、AWS に学び、開発ベンダーにも学ぶ貪欲さ
2014~2018 年にかけて、わずか数名でモバイルアプリやビッグデータ分析基盤を構築・運用していたカスタマーテクノロジー部は、2020 年現在、数倍の組織へ成長。荒木氏は、技術スキルだけにこだわらず、スターバックスの将来を真剣に考える若手スタッフを中心に、チームの強化に努めているといいます。
また同氏は、移り変わる顧客ニーズにすばやく応えるために、マイクロサービス化にも注目してきました。ある分野の開発/技術を得意とするベンダーと協業し、一緒にプロジェクトを遂行していく中で、アイデアや技術を学んでいくというスタイルを、スタッフ教育にも役立てています。そうすることで 1 つのサービスへの理解が深まり、その先に、実際にマイクロサービス同士をつなげて新しいサービスを作れるようになるというわけです。
さらに、チームの連携を強化し、将来を俯瞰したサービス開発に取り組む力を育成するため、AWS が提供するデジタルイノベーションプログラムも活用。エンジニアチームだけではなく、事業を企画するビジネスチーム、開発ベンダーチーム、そして AWS とともに、Amazon の Working Backwards メカニズムやイノベーションフレームワークを学ぶという取り組みです。ここで立案された企画の 1 つは『モバイルオーダー&ペイ』サービスの一部として採用され、のちに実証実験も行われました。実践につながらなかった企画も含め、全関係者が 1 つの企画を遂行するために必要な全体のプロセス、ローンチから逆算して準備する必要性など、多くの学びがあり、実りあるプログラムだったと荒木氏は評価します。
「エンジニアをまとめるリーダーとしての立場では、3 年後のスターバックスを描いて戦略を練るようにしています。少し先を見据えておくことで、柔軟に変化できると考えています。AWS を活用し、システムを自分たちで構築しているからこそできることです」
お客様と従業員との架け橋を作りたい
DXを主眼に強化・開発した顧客サービスは、モバイルやデジタルで完結してしまうことも少なくありません。しかし、スターバックスはデジタル体験そのものを提供したいのではなく、お客様とパートナー(従業員)との“架け橋”を作りたいと考えています。
デジタルサービスの活用が活発になると、お客様からもパートナーからも問い合わせが増え、そこからよりよい体験づくりの重要なヒントを得ることができます。たとえば、カスタマーセンターを運営するチームとエンジニアリングチームとが連携、Amazon Connect のような新しいサービスを導入することで、効果的かつ効率的に情報を収集する試みも行っています。自社のエンジニアチームにとどまらず、サービスを支える社内外全ての関係者の協力体制の強化に努めていると語ります。
「グローバルのスターバックスのベストプラクティスを日本市場へ取り入れるときには、ビジネス、アーキテクチャそれぞれ、日本にあった形に変換することが不可欠です。AWS には、日本ならではのスターバックス体験の創出を一緒に検討してくれる仲間として、今後もサポートを期待しています」
カスタマープロフィール:スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社
- 代表取締役最高経営責任者(CEO) 水口 貴文 氏
- 従業員数 4,456名(2020年9月末現在)
- 事業内容 コーヒーストアの経営/コーヒー及び関連商品の販売
実施施策
- AWSを活用したビッグデータ解析・モバイルアプリ開発
- マイクロサービス化、アジャイル開発を含むシステムの社内運用体制の強化
- デジタルイノベーションプログラムを通じた新サービス開発のスキル醸成
ご利用の主なサービス
Amazon EC2
Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) は、安全でサイズ変更可能なコンピューティング性能をクラウド内で提供するウェブサービスです。ウェブスケールのクラウドコンピューティングを開発者が簡単に利用できるよう設計されています。
Amazon S3
Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) は、業界をリードするスケーラビリティ、データ可用性、セキュリティ、およびパフォーマンスを提供するオブジェクトストレージサービスです。
Amazon RDS
Amazon Relational Database Service (Amazon RDS) を使用すると、クラウド上のリレーショナルデータベースのセットアップ、オペレーション、スケールが簡単になります。
AWS プロフェッショナルサービス
AWS プロフェッショナルサービスは、AWS クラウドを使用して期待するビジネス上の成果を実現するようお客様をサポートできる、専門家からなるグローバルチームです。当社はお客様のチームおよび選任された AWS Partner Network (APN) のメンバーと協力し、エンタープライズクラウドコンピューティングの取り組みを実行します。